軍医【ポエムストーリー】

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湿った土の中にうごめくうめき声。

便の匂いがたちこめる洞窟の中で、私は彼らに手榴弾を渡す。

手を合わせて手榴弾を受け取る一人の患者。

私が渡せる薬はもうなかった。

私の記憶ははるか子供時代にさかのぼった。

医師になろうと決意した日のこと。

私は誰かの命を救うために医師になろうとしたはずだったが、

今の私は仲間に手榴弾を渡している。

兵士たちは最後の突撃のために銃剣を磨いている。

私は隊長からの最後の命令を待っていた。

仲間の一人が和歌を詠んで私に話してくれた。

痛みに震える手で日記を書いている仲間もいた。

機関銃に銃弾が装填される。

天皇陛下万歳の声。

剣の音。風の音。したたる水をなめる息遣い。
 
 
 
私が取るべき道とは?

私にとっての勇気とは?
 
 
 
 

「隊長」

膝ががくがくとした。

「降伏しましょう」

隊長が私を見る。

全員が私を見る。

私もまた隊長の眼を見る。目をそらしはしなかった。
 
 
 
 

あれから幾十年。

あのときの仲間たちは今も生きていて、私たちは笑いあう。

誰も認めなくても、私の唯一の勲章。
 
 
(作曲:甘茶)
 
 
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